1クリック劇場 #02「わからない」

わからない

 「わからないのは、だ」――と、メノリ・ヴィスコンティはひとりごちた。
 どうして自分はこんなところにいるのだろう。何故身体の自由がきかないのだろう。
 頬に冷たい草の感触がある。視界の端に見える青い物は、恐らくシーツだろう。頭の上の方から聞こえるのはフェアリーレイクの水音か。目前にはみんなの家がある。
 どうやら自分はシーツでぐるぐる巻きにされた上、縛られて草の上に転がされているらしい。
 だが何故そんなことになったのか。
 今は朝のようだった。昨夜の記憶は――思い出せない。
「おおーい、誰かいないのかー。ルナー? シャアラー?」

「メノリがあんなに酒乱だったなんてね」
 朝日の元、ルナはみんなの家のリビングを見渡してため息をついた。テーブルは吹っ飛び、イスは散乱し、床や壁には潰れた果物や飲み物が染みを作っている。
「人は見かけによらないってこのことだよね」
「何かストレスが溜まっていたのかしら」
 片づけをしながらシンゴとシャアラが言った。シンゴの眼鏡はフレームが歪み、左目のまわりには見事な青あざができていた。
「あの果物にアルコール成分があるのは分っとったんやけど、あんなに過敏に反応するとは思わんかったわ」
 ぼやくチャコが干されているのは、湖に投げ込まれたせいである。
「気がついたぞ」
 下から梯子を登ってきたカオルが言った。
「意識はしっかりしているようだ。……で、呼んでるが?」
「そう。ありがとう、カオルは少し休んで。私が行ってくるわ」
 一晩中、外で火の番をしながらメノリの様子を見ていたカオルと入れ替わりに、ルナは下に降りる梯子に手をかけた。
「だ、大丈夫なのか?」
 夕べ、テーブルを投げつけられたハワードが男子部屋から怯えた顔をのぞかせて言う。
「メノリはメノリだもの、大丈夫に決まってるでしょー」
 気楽に言い残してルナは梯子を降りていった。
 ちなみにベルは、メノリを取り押さえようとした際に回し蹴りをくらってまだ寝込んでいた。

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