1クリック劇場 #03「昼寝」

昼寝

 昔むかーし、ある島にカオルというとても狩りの上手な若者がおったそうじゃ。その若者は夜となく昼となく山に川に海に出かけてはいろいろな食糧を持ち帰ったので、村人は大層喜んでおったそうじゃ。
 ある日の昼間、突然カオルがみんなの家に帰ってきたそうじゃ。家にいたシャアラという娘っこが驚いて声をかけると、若者は「疲れた、寝る」と言って布団に潜り込んでしまったそうじゃ。
 夕方になり、シャアラが帰ってきた村人達にそのことを話すと、「カオルも疲れているんだ、今はそっとしておこう」ということになったそうじゃ。
 ところが次の日になってもカオルは布団から出てこなかったそうじゃ。夜になり、とうとう腹を立てたハワードという我儘者がカオルの枕元で「働かざる者食うべからず」と怒鳴ると、カオルは地獄の底から響くような声音で「うるさい」と言ってジロリと睨みつけたので、ハワードは腰を抜かしてしまったそうじゃ。まったくヘタレじゃの。今度はチャコというカラクリ人形がカオルの様子を調べたそうじゃ。
「脈拍、呼吸、体温、まったく異常あらへんで」
「じゃ本当にただ眠っているだけなの?」
「ねえ、思ったんだけど、カオルってここ1週間ぐらいずっと眠ってなかったんじゃない?」
「じゃあ、1週間たったらコイツは目を覚ますのか? ったく人騒がせな奴だ」
「問題はその間の食糧だ」
 しかし眠りにつく前にカオルが川にこしらえていた梁という仕掛けのおかげで、魚だけは手に入れることができたので、村人達はそれを食べながら、早くカオルが目を覚ますよう供え物をして朝晩拝んで待ったそうじゃ。
「シャアラ、その果物に足をつけたものは一体なんだ」
「前に本で読んだの。霊をお迎えする時は、こういうものを供えるんですって」
「……それはいろいろ違ってると思うぞ」
 眠りはじめて8日目の朝、ついにカオル大明神は眼を覚ましたそうじゃ。枕元に山のように積まれた供え物を平らげるとカオルは槍を担いで出かけていったので、村人達はほっと胸をなで下ろし、また大層喜んだそうじゃ。

「今晩はご馳走だー」

 どっとはれ。

サヴァイヴ30題トップへ