1クリック劇場 #13「学校」

学校

 校内を巡視中、屋上のドアを開いた生徒会長のメノリはうんざりしたようにため息をついた。
「また、お前達か。こんなところで何をしている。早く帰れ」
「あらメノリ」
「同好会活動だよ」
「とてもそうは見えないが?」
 友好的に手を振ってくるのを相手にせず、メノリはじろりと屋上をたまり場にしている連中を睨め付けた。
 確かに、銘々がてんでに屋上の手すりに寄りかかり座り込みしている様子は、その前に散らばる菓子袋やジュースの空き缶をさっ引いたとしても、とても健全な部活の最中とは思われなかった。
「本来なら屋上は立入禁止だろう」
「だって僕たち、部室がないんだ」
「部室を与えられるに相応しいような活動をしていないからだろうが」
 文化系、体育系を問わず何らかの部に入ることを義務づけられているこの学校で、はみ出した者が寄り集まり殆ど無理矢理に成立させたのがこの同好会だ。だから『天文園芸文芸メカ同好会』なとどいうふざけた名称がついている。
「天文がルナで、園芸がベル、文芸がシャアラ、メカがシンゴ……、以前から思っていたが、ハワード、おまえはここで何をしているんだ?」
「僕か? 僕は「部長」だ」
「は?」
「ルナが、何にも属していない人間がまとめ役として必要だっていうからさ、だから僕はここで部長をしてやっているんだ」
「ただの員数合わせじゃないのか? ――待て、じゃあ活動費はどうしてるんだ?」
 こめかみを押さえながら訊くメノリにルナが答える。
「活動費はみんなで水泳部の代わりにプールの掃除をしたりとか、私が宿題を代わりにやってあげたりとか……、シャアラのラブレター代筆、あとはベルが演劇部の大道具をしたりとか、シンゴが放送部の機材を直したりとか、いろいろね。それに、ほら、カオルが」
「カオル?」
 ルナがひょいと下を指し示す。つられたようにメノリは手すりから下をのぞいた。
 中庭を挟んだ反対側の校舎、自転車置場のそばに『天文園芸文芸メカ同好会』最後の構成員・カオルらしき人影が立っていた。
 カオルは下校途中の男子生徒の行く手を阻むかのように立ちふさがったかと思うと、身体を入れ替え、相手を校舎に押しつけた。しばしのやりとりの後、カオルが相手の肩口を小突いて二人が離れる。どうやら相手はカオルにいくらかの金銭を渡したようだった。
 それはまるで。
「カツアゲではないか!」
「カツアゲなんて下品な言葉遣いを生徒会長さんがしていいのかよ」
「うるさい。そんなことを言っている場合か!」
「まあ、そう堅いこと言わなくても」
 怒りに震えて振り返ったメノリは、ベルやシャアラまでが鷹揚に笑っているのを見て更に顔を引きつらせた。
「おまえたち……、犯罪だぞ、これは!」
「……でもさ、ストレートに信じて疑われないってあたりが、日頃のカオルの行いを物語ってるよね」
「シンゴったら」
 オーバーヒート気味のメノリには、くすりと笑い交わすシンゴとシャアラの声も最早耳に入らない。
 笑いながらルナが進み出ると、血管が切れそうなメノリの前に口の開いた菓子袋を差し出した。
「まあまあ、メノリ。このお菓子おいしいよ。食べない?」
「そんなもので懐柔されるか!」
「いいからいいから。ちょっと食べてみてよ」
「ルナ」
「ほら、おいしいよ」
 妙なルナの気迫に押されてメノリは受け取った菓子を渋々口に含んだ。
「どう? おいしかった?」
「そんなことはどうでもいい!」
「でもこれもカオルが持ってきたお金で買ったんだよね」
 ニヤリと笑うルナの後ろでハワードが囃し立てる。
「やーい共犯共犯」
「……!!」

 数分後、屋上に上がってきたカオルは涙目のメノリに詰め寄られることになる。
「だからこれはバスケ部の代理で試合に……、は!? ちょっと待て、おい、お前らいったいどんな説明したんだ!?」

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