1クリック劇場 #14「偽り」

偽り

「どうしよう、ベル」
 シャアラと一緒に森に食糧を探しに来ていたベルは、困った顔で振り返った彼女の手元を覗き込んだ。
 親とはぐれたのか、藪の下にまだ子供のトビハネがうずくまっていた。動かないのは後ろ足を怪我しているからだ。
「捕まえるの? こんなに小さいのに可哀想よ」
 懸命にシャアラが訴える。
「いや……、放してあげよう」
 ようやくこの島での生活にも慣れ、以前のような切迫した状況からは脱していた。他の仲間からは甘いと言われるかもしれないが、ベルにはこんなに小さな命まで奪う必要はないように思われた。
「細い木の枝を何本か探してきてくれるかな」
「うん」
 頷いてシャアラが駆けだしてゆく。ベルは、じっとこちらを見つめている仔トビハネにそっと手を伸ばした。

 シャアラが持ってきた小枝を副木にして、いくらか持参してきていた薬草と共に木の蔓で巻く。
 殺す命と助ける命。どこで線引きをすればいいのか。自分達が生き延びる為に幾つもの命を奪ってきた。余裕がなくなれば、幼かろうと容赦なく殺して食糧にするだろう。今ここで仔トビハネを助けてみせるのも、所詮は、偽善だ。
 もしこの地で死を迎えることがあったら、そのまま大地に埋めてもらおう、とベルは思った。そうすれば少しでもここに何かを返すことが出来るかもしれない……。
 ささやかな手当が終わり、ベルが手を離すと足を引きずりながらも仔トビハネは森の中に消えていった。
 二人は黙ってしばらくそれを見送っていたが、やがてシャアラが微笑んでベルを振り仰いだ。
「よかった。ベルになら判ってもらえると思ったの。――それに、どうせ食べるならもっと大きくなってからの方がいいものね」
「……シャアラ?」
「行きましょう」
 笑って、シャアラが歩いてゆく。
 彼女がトビハネを食べることに抵抗を示さなくなったのはいつからだったかな……と思わず遠い目をしてしまうベルであった。

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