「ベル、何してるの?」
シャアラと一緒に食糧探しから戻ってきたルナは、ベルがスターホールの入口で雪玉を転がしているのを見て尋ねた。
「パグゥの雪像を作ろうと思って」
「パグゥの雪像?」
「アダム、パグゥがいなくなってから元気がないみたいだし、少しは気が紛れるかと思って。幸い適度に湿り気のある雪質だから、こうして転がしていけばかなり大きなかたまりが作れるはずだ」
実際、ベルの手元の雪玉はベルの膝に届くほどの大きさになっていた。
「それにこんなにたくさん雪が積もってるんだから、少しでも雪を楽しむ方法を考えなくちゃね」
「雪を楽しむ、ねえ……」
「みんな、何をやっているんだ」
食事の支度をしていたメノリがスターホールから顔をのぞかせた時、更なる雪を求めて雪玉転がしの旅に出たベルとまだ漁から帰らないカオルを除いて、ルナ達はわいわいと雪合戦をしていた。
ルナは手を振ってメノリを誘った。
「メノリもおいでよ。面白いよー。それにこうしてると体も温まるし」
「しかし……」
言っている端から、メノリにハワードの投げた雪玉がぶつかる。
「どこ見てるんだよー。ドンくさいぞ、メノリ」
からからとハワードに笑われ、遂にメノリも雪合戦に参戦する。
先日サツマイモを見つけたことで、皆の気持ちに若干の余裕が生まれていた。それに少なからず雪に不自由な生活を強いられていたので、そのストレス発散ということもあった。
ひょいひょい動くハワードを狙うには、いちいち雪を握り固めながら投げていたのでは間に合わない。メノリはシンゴを振り返った。
「シンゴ、雪玉を量産だ」
「オーケー」
「そんなことしたって当たるもんかー。ほーらよっ」
反対にハワードが雪玉を投げてくる。避けようとしてメノリは足を滑らせた。
雪玉は転ぶメノリの頭上を通過し――魚を下げてスターホールに入ろうとしていたカオルの後頭部に見事に命中した。
剣呑に目を細めてカオルが振り返る。
ハワードは曖昧に笑いながらひらひらと手を振った。
「わ、悪い悪いー」
カオルが何も言わずに中に入っていったので、ハワードと、それに何とはなしに成り行きを見守っていた皆はホッと肩の力を抜いた。
「なんだよあいつ。脅かしやがって……うわっ」
ハワードの顔が引きつる。
カオルが魚と槍を置いて洞窟から出てきたのだ。
「どけ」
普段ならこんな言葉遣いを許すはずのないメノリも、今ばかりは素直にカオルに場所を譲る。
カオルはシンゴが固めておいた雪玉を手に取ると、ハワードに向かって投げた。メノリのものとは速さも威力も倍以上違う雪玉がハワードの耳元を掠めて飛ぶ。棒立ちになるハワード。それだけで再び洞窟に戻ろうとするカオルの背中に、悔し紛れにハワードは叫んだ。
「カオル! お前わざと外して投げただろう」
「そうか」
立ち止まったカオルの言葉は誰の耳にもはっきりと聞こえた。
「カオル、ダメよ、顔を狙うのは止めて!」
ルナが必死に叫ぶ。
「バカが……。ハワード、逃げろ!」
メノリに言われるまでもなく、とっととハワードは逃げ出していた。木立の中に入ればなんとかなるはずだ、とハワードが走りながらちらりと振り返ると、カオルは大きく振りかぶったところだった。
「ひいいぃぃ」
どんな剛速球が飛んでくるのか。
ハワードが死をも覚悟したその時。
「あれ? みんなどうしたの?」
あたりの雪を巻き込んで背丈よりも大きくなったベルの巨大雪玉がカオルを背後から轢いていた。