「おいカオル、ちょっと待てよ」
人気のない工事現場。数人の子分を引き連れたハワードは、帰宅途中のカオルの前に立ちはだかった。
両手をポケットに突っ込んで俯きがちに歩いてきたカオルが、足を止めちらりと目を上げる。
ハワードはそれを見て満足げに笑った。
ハワードにとって、自分の言うことをことごとく無視するカオルは、限りなく目障りな存在だった。だから、ことあるごとにカオルを自分に従わせようとしていたのだが。
名前を呼んだのに完全無視され赤っ恥。
呼び出しをすっぽかされて待ちぼうけ。
学校をサボられ肩透かし。
何だかんだいって育ちのいいハワードにとって、カオルを捕まえるだけで一苦労なのだった。
だが、それも今日で終わり――だ。
その頃、工事現場前を通る歩道の上では、自分の数メートル下でハワードとカオルが対峙しているとは知るはずもないルナが「ねえ、これから私の家にこない?」とシャアラを誘っていた。
「チャコに紹介したいの。だって、シャアラはここでの初めての友達だもの」
「ルナ……」
シャアラが嬉しげに頬を染める。
アハハウフフと、ルナとシャアラが手に手を取って走ってゆく脇を、シンゴの乗ったスクーターがすり抜けた。叫び声と白煙をまき散らしながら何とか歩道のカーブを曲がりきってゆく。
そして。
カオルはあっさりハワード一味をのすと、何事もなかったように帰途についた。