1クリック劇場4 #07「エアバスケ」

エアバスケ

 何の因果か、体育の授業中に再びエアバスケで対戦することになったルナとハワード。
 試合前は、
「今度は反則はナシで頼むわね」
「審判が取らなければファウルじゃないさ」
 などと軽口を叩き合っていたものの、試合が白熱してくれば自然と動作も荒くなってこようというもので。
 しかし、パスをもらって振り向いたハワードの肘が、ルナの顎に入ってしまったのはまったくの偶然だった。

 体のバランスを崩し、肩と後頭部を壁に強打して床に崩れ落ちたルナは、すぐさま保健室に運び込まれた。
 保健室備え付けの医療ロボットの診断は、軽い脳震盪。ほっと胸をなで下ろし、後をロボットに任せて一旦授業に戻り昼休みに再び保健室にルナを見舞ったメノリ達は、だが、ベッドの上で意識を取り戻していたルナの一言に顔を見合わせることとなった。
 なんとなれば。
「私はメインコンピュータ・サヴァイヴ」
 そうルナが宣言したからである。

 とりあえずルナの話を聞くことにした一同は、ルナの中に機械であるサヴァイヴが存在するに至った経緯を説明され、更に唖然となった。惑星サヴァイヴを守るべく重力嵐のただ中で宇宙船の重力制御ユニットを作動させたあたりのことは、一通りルナから教えてもらっていたものの、その時ルナと宇宙船を司るメインコンピュータが一体化していたなどという話はまるで聞かされていなかったからだ。
「サヴァイヴを体内に取り込んだなんて、なんて無茶なことを……」
「ルナの馬鹿」
 ベルやシャアラが信じられないといった面もちで呟く。
 考え込んでいたメノリが一つの疑問を口にした。
「しかし今の話が本当だとしても、サヴァイヴはあの時、宇宙船と共に消滅したんじゃないのか? それが何故、今になってルナの中に現れたんだ?」
「確かに私は長きにわたる使命を終え一度は無に帰った。――しかし、ただ一つ心残りがあったのだ。それは」
「それは?」
 ルナ−サヴァイヴの腕がのろのろと上がり、真っ直ぐにハワードを指した。ハワードがギョッとした顔で後ずさる。
「な、何だよ」
「ハワードが語った“いんすたんとらあめん”。人間の叡智が作り出したという、その姿を一目見たいという強い願いが私にはあった」
「その思いがルナの中に残っていて、ルナが意識を失ったことをきっかけにサヴァイヴが甦ってしまったという訳か……」
「その通りだ」
 後を引き取って言ったメノリに、ルナの声だがルナのものではない口調で、オレンジ色の髪の少女が頷く。
「ちょっと待ってよ。コンピュータの幽霊なんて信じられない。じゃあ、サヴァイヴは今、自分の状態をどんなふうに認識しているの?」
「そんなことより、ルナは? ルナは大丈夫なの?」
 シンゴやシャアラの言葉をきっかけに、またベッドサイドが騒然となる。
 それをハワードは悪い夢の中にでもいるような気分で見つめていた。確かに、『万有引力の法則だってインスタントラーメンの作り方だって、発見したのは人間なんだぜ』――かつて、そんなようなことを言った覚えはある。だけどそれが原因で、あのサヴァイヴがルナの中に甦ったって? 嘘だろう?
「ハワード」
「え?」
 呼びかけられてハワードが我に返ると、背後に影のようにカオルが立っていた。
 カオルは底冷えのする視線でハワードを見つめ、短く言った。
「責任を取れ」
「ぼ、僕のせいかよ!?」
 だが、黒い瞳の圧力は揺るがない。
 ハワードはヤケクソのように叫んだ。
「判ったよ、責任を取ればいいんだろう、責任を!」

 その日の晩、ハワード財団をあげて開催された「いんすたんとらあめんパーティー」。その盛大さは、ロカA2において後々までの語り草になったという。

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