1クリック劇場4 #09「男子部屋」

男子部屋

 ハワードには悩みがあった。
 みんなの家に越してきてからというもの、熟睡できない。
 原因は判っている。同じ部屋の奴らの寝息だ。思えば、早くから一人部屋を与えられて育ったハワードには誰かと一緒に眠った記憶がない。そのせいか、他人の存在が気になって気になって、うまく寝つけないのだ。
 寝苦しいばかりのシャトル生活でも、野生動物に怯えながらの野宿の日々でも、そんなことはなかった。些末なことに気を取られるだけの余裕がなかったからだ。むしろ、これは環境が整えられたが故の不眠症といっていい。ようやく少しは安心して眠れる状態になったというのに、何という皮肉だろう。
 ――あいつらと違って僕は繊細だからな。
 そう独りごちた彼は、絶妙な解決策を思いついて膝を叩いた。
 夜眠れないのなら、誰もいない昼間寝ればいいのだ。

「……誰が不眠症だって?」
 シンゴはあからさまに嫌そうな表情でハワードの悩みについての見解を述べた。
「寝相は悪いし寝言は言うし、あれだけ夜中に騒いでおいてよく言うよ。この前なんか、シンゴシンゴってうるさいから仕方なく返事をしたのに、全部寝言なんだよ。次の日聞いても全然覚えてないし。ひどいと思わない?」
 同意を求められたベルは穏やかに笑った。
「釣り竿は俺が見てるから、シンゴは少し休むといいよ」
「うん、ありがとうベル」
 二人はフェアリーレイクで釣りをしているところだった。ちょっと照れたようなシンゴの顔を見て、もう一度笑みを浮かべたベルだったが、ふとその表情が曇った。
「カオルは全然眼を覚まさないけど、やっぱり疲れているのかな」
 夜中、自分やシンゴがハワードのたてる騒音で起きあがってしまうような時でも、カオルだけは眼を覚ます様子がない。普段あれだけ物音や気配に敏感なカオルが、気づきもしないとはよほど疲れているのだろうか。
「違うよ」
 が、シンゴはベルの心配をあっさり否定した。
「聞いたらね、何かシャットアウト機能がついてるみたいな話してたよ。寝てる時でも、無意識のうちにハワードの声だって判断して無視できるんだって」
「へえ……」
 便利だよねー、僕もそういう機能ほしいなー。そんなシンゴの声を遠く聞きながら、カオルっていったい……と思わずにはいられないベルであった。

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