「カオル……! お前わざと」
「審判にバレなきゃいいんだろ」
体育の授業、エアバスケの試合中のことだった。
当てつけるようなカオルの言葉に、ハワードは心配する仲間の手を振り払い立ち上がった。
「カオル! お前、もし僕が怪我でもしてたらどうするつもりだったんだよ」
だが、指を突きつけるハワードにカオルは悪びれた風もなく言う。
「不可抗力だ」
「お前……!」
軽く流されてハワードの頬が紅潮する。
「パパに言ってこのコロニーから追い出してやる」
カオルは面倒くさそうにため息をつくと、組んでいた腕をほどいてハワードに向き直った。
「そんなに鈍いのか?」
「何だと?」
「あの程度の接触で怪我をするほど、運動神経が鈍いのか、と聞いている」
「そんなわけないだろ、この僕が」
「なら問題ないだろう」
「――それとこれとは」
ハワードの反論を、独り言じみたカオルの呟きが遮った。
「誰にでもあんなことを仕掛ける訳じゃない。お前だからだ」
「……僕だから?」
ハワードは眉をひそめた。そのままコートの上を見回し、寄り添うように立つルナとシャアラに目を止めると納得したように頷く。
「ふん、あんな頼りない奴らと組まされたんじゃ、反則でもしない限り、この僕は止められないって判断したのか。成程な」
「…………」
メノリは同じコートの上で、二人のやりとりを聞いていた。ソリア学園の生徒であると同時に将来を嘱望されるヴァイオリニストでもある彼女は、体育の授業では学校側の配慮で実技を免除されている。その代わり、教師の助手として審判を任されることが多かった。実際、このゲームでも審判を務めている。
メノリは、風向きが変わったのを感じて口を開いた。
「よければ試合を再開したいのだが」
「ラフプレイなんて野蛮な行為は僕の趣味じゃないけど、礼儀として手加減なしで勝負してやる。後悔するなよ」
いつもの調子が戻ってきたハワード。それを無視するカオル。
「――では試合を再開します。両チームとも位置について」
二人が正しく意志疎通を果たしているかは疑わしい限りだが、それは審判の関知するところではない。
メノリは試合開始の笛を吹いた。