1クリック劇場4 #03「思いやり」オマケ

重い槍

「いい加減に手伝ったらどうだ、ハワード。もう行くぞ」
 トゲのあるメノリの声に、ハワードは舌打ちして振り返った。
 いつもは交代で水汲みにくる湖に、今日はチャコを除く全員でやってきていた。ボートで一度に大量の水を運ぶためだ。
 皆が広げたボートに水を溜めている間、「オオトカゲが来ないか僕が見張っててやるよ」と、カオルが岸辺に突き立てておいた槍を取り上げて周囲の警戒に当たっていた――有り体に言えば作業をサボっていたハワードだったが、シャトルに帰るとなるとそうも言っていられない。仲間の方を見ると、本当に皆で水をたたえたボートを持ち上げ、今にも歩きださんばかりだ。
 槍を担いで渋々とボートのところに戻ってきたハワードは、ベルとカオルがここを持てと言わんばかりに間を開けるのを見て、ますます顔をしかめた。
 「まったく、何で僕がこんなことやんなきゃいけないんだよ」
 投げ出していたオールを拾い上げると、ボートの中に放り込む。それから槍をカオルに返そうとして、手が離せないようなのを見たハワードは、それもボートの中に投げ入れようとした。
「よせっ、ハワード」
「えっ?」
 しかし、カオルの制止の声がむしろ逆効果となって、驚いた弾みでハワードは槍を手放していた。投げ込まれた鋭い黒曜石の穂先が、水の抵抗を物ともせずあっさりとボートの底を貫く。

「あーっ」
 静かな湖畔に、いつまでも皆の叫び声が響いていた。

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