「あああ、あの、これ」
足音に気づいたシャアラが慌てて立ち上がる。
「掃除をしていたら」
カオルは皆まで聞かずに、シャアラがおろおろと差し出したIDカードを奪おうとした。
しかし、その手は空を切った。
すっとカオルの目が細くなる。
もう一度、腕を伸ばす。
絶妙のタイミングでシャアラがそれをかわす。
二度三度と、無言の攻防が続いた。
いつしか額に汗を浮かべているのはカオルの方だった。
「ちっ」
強引にカードを引ったくろうとしたカオルの隙を捉えて、シャアラがその背後に回る。
ピタリとカードがカオルの喉元に突きつけられた。
シャアラの眼鏡が妖しく光る。
「このカードを返してほしかったら、洗いざらいしゃべることね」
ゴシップハンター・シャアラ。
話のネタになると直感したものは逃さない、知る人ぞ知るシャアラの二つ名であった。