1クリック劇場3 #04「護衛」

護衛

「まだ着かないのー?」
 シンゴはうんざりした声を上げた。
 ハワードを唆して東の森探検に出発したはいいが、一向に遺跡とやらが見えてくる様子もない。
「こんなところでへばってどうするんだ。元気を出せ、元気を」
 ハワードは日頃のやる気のなさはどこへやら、やたらと張り切って先を歩いてゆく。シンゴはため息をつきながら背負ったリュックを揺すりあげた。
「……っ」
 リュックの中から聞こえてきた声に思わず足が止まる。試しにリュックを背中から下ろして降ってみると、フタがごそごそと動いた。
 シンゴが見ている前で、リュック上部の動きは更に激しくなり――そして、中から顔をのぞかせたのは。

 カオルだった。

「わっ」
 驚きのあまり、シンゴは叫ぶと同時にリュックから手を放していた。どさりとリュックが地面に落ちる。
 リュックの中にカオル。どう考えてもサイズが合わないだろう。しかし、呆然とするシンゴの目の前で、カオルは地面に転がったリュックから這い出ようとしていた。
「ハ、ハワード、これ一体どういうことなんだよ!」
「何だよ、うるさいな」
「何でリュックからカオルが出てくるんだよ!」
「ああ、本当はチャコを連れてくるつもりだったんだよ。そしたら気づかれちゃってさ。理由を話したら『コレ持ってけ』って。まさかカオルが入ってるとは思わなかったけど、まあいいじゃないか」
「凄いやチャコ……、新しい物質移動の方法を確立したんだね! ――って、そんなワケないじゃないか!」
「ここはどこだ」
 背後から降ってきたドスのきいた低い声に、シンゴは飛び上がった。振り返ると、恐ろしく不機嫌な顔をしたカオルが立っていた。
「ひ……東の森だよ」
 カオルは前髪をかき上げた。
「東の森へはルナが回復してから、ということになっていただろうが」
「ハッ、単独行動常習犯のお前に言われたかないね」
 ハワードが口を挟む。
「いいじゃないか、ちょっとくらい。こんなに来たがってんだしよ。それとも何だ、怖いのか?」
「あ?」
「ははあ、怖いんだな。あーあー判った判った。怖いんだろ、無理すんなよ。帰れ帰れ、この――臆病者」
「俺に喧嘩売ってるのか。いい度胸だ」
 睨み合う二人に背を向けて、シンゴはリュックを拾い上げた。
 見慣れたルナのリュックだ。中を覗いてみても、どこにも穴は開いていない。いや、そもそも穴が開いてたらカオルは入っていられないはずで――ハハハ、何考えてるんだ。バカだなあ。落ち着けシンゴ。
 シンゴが自分の思考の空転ぶりに虚しく笑っているうちにも、ハワードとカオルの諍いはエスカレートする一方だった。ハワードに飛びかかったものの、相手に避けられ木に激突しそうになったカオルが、幹を蹴って逆襲に出る。
「アチョー」
「うわー」
「カオル、もうそのへんで……」
「黙れ。次はお前だ」
 ビッとシンゴを指さしたカオルの目は完全に据わっていた。
「……チャコ、一体何をしたんだよー!!」

 その後、とりあえず遺跡を目指すことになったが、カオルが巨木の反発力と低重力を利用して手っ取り早く空を飛んで先に進もうと言いだし、止める間もなくハワードもその案に賛成したため、抜け駆けしようとしたことを死ぬほど後悔したシンゴであった。

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