『ルナです』
ルナは、今は離れ離れになっている懐かしい仲間の顔を思い浮かべながら、モニターに向かって微笑んだ。
『みんな元気? 私は毎日元気にやってます。
地球環境再生化プロジェクトも現在順調に進行中。少しずつだけどようやくテラフォーミングマシンの成果が出てきたみたい。このままいけば、もうじき自由にドームの外に出られるようになると思うわ。おかげで提出しなくちゃならない報告書の数が増えてもう大変。正直、私はあんまりそういう仕事は得意じゃないので、とってもチャコに助けてもらってます。あと、最近開発局からの視察が多くて、私もいろいろ案内したり説明したりしてるけど、ああいう人達の相手って肩が凝っちゃうな。私にはやっぱり、温室の管理をしたり地質調査をしたりする方が向いているみたい』
『ルナな、こないだ冥王星から視察に来た兄ちゃんにいきなりプロポーズされたんやで』
「チャコ!」
突然割り込んできた声にルナは一旦レコーダーのスイッチを止め、闖入者を振り返った。
「なーに、余計なことは言わないで。だいたいそれはもう断ったじゃない。第一私にはまだそういう話は早いと思うし」
「何ゆーてんねん。こないな話に早いも遅いもあるかいな。ルナは一目惚れっちゅー言葉を知らんのかい」
「はいはい。それで何の用なの?」
「そやった。こないだの件で急ぎの話があるとかゆーてチーフが呼んどったで」
「ええ、今から? 折角みんなにメールを送ろうと思ってたのに」
「今撮ってたのがそうなんやろ? そのまま送ったらええやないか」
「でも」
「何ぞ問題があるんか?」
ルナは少々天井を仰いだが、
「まあ、いっか」
とお気楽に笑うと、メールの続きを記録するべく再びモニターに向かった。
『ごめんなさい、ちょっと急ぎの用が入っちゃった。見ての通り、チャコもとっても元気です。――じゃあまた。みんなもお仕事頑張って。近くに来ることがあったら絶対連絡してね』
後日。
「………………………………プロポーズ、だと?」
地球から遥か離れたシャトルの中に、生きることの厳しさを噛みしめるカオルの姿があったことを、ルナは知らない……。
カオルが上司に転属願いを出したのはその直後だったという。