1クリック劇場3 #07「友」

 カオル君は窓の外を眺めるのが好きでした。
 慌ただしい毎日の中で、その時だけは面倒なことを何も考えなくて済むからです。
 宇宙ステーションの窓から見えるものは、星々と闇。離発着する宇宙船が視界に入ることもあります。
 訓練も授業もない時、よくカオル君は通路の隅っこに立って窓の外を見ています。その背後を、同じ訓練生達が談笑しながら通ることもありましたが、カオル君が振り向くことは滅多にありませんでした。
 カオル君には友達がいません。カオル君は競争相手と馴れ合う気はありませんでしたし、独りでも平気だったからです。むしろ、寮生活ではプライバシーはないも同然なので積極的に独りにしてほしいくらいでした。
 訓練生の中には、そんなカオル君に笑って手を差し出してくれるような奇特な人もいましたが、カオル君は自分からその手を振り払ってしまいました。若くして「心から他人の心配をできるヤツはこの世にはいないさ」などとヒネた人生訓を持つカオル君には、ルイ君のような善意の人は胡散臭く感じられて仕方がないのです。しかも、唯一成績で敵わない相手とくれば尚更です。
 友達なんか必要ないさ。
 そう呟いて、独り窓の向こうを見やるカオル君。
 極端に他人との交流が少ないが故に、「あいつはガラスに映った自分の顔に見とれているらしい」と噂されていることも耳に入らない、それはそれで平和なカオル君なのでした。

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