鯖の佃煮

prev / next

#44 「ハワードが助けてくれた」

 「ハワードが……、ハワードが助けてくれた」――シンゴ

 シンゴ号泣、メノリ節炸裂、砂漠を越えてメインコンピュータ直下へ、の巻。

 まずは前回クライマックスのおさらいから開始。

 そして夕暮れ。
 “砂漠の花”のカケラが輝きながら風に吹かれてゆくさまも物悲しく、目前で仲間2人を失いさすがにショックを隠せない6人と1匹。ルナの涙に触発されたか、シンゴが発作的に流砂の中に飛び込もうとしますが、生き残り組は精神的にオトナで感情を内向きに処理しようとするタイプが多かったから、余計シンゴは気持ちのやり場がなくなってしまったんだろうな。メノリに引き留められ、号泣するシンゴ。
 多分、誰か死んだとしても遭難直後なら衝撃はあってもここまで辛くはなかったでしょう。何度も危機を乗り越えずっと一緒にやってきた、仲間だ、という意識があるから失ってしまった存在がより大きく感じられる。
 その思いはみな同じで、ややあってルナも大陸に来たことを悔やみ自分を責める発言をします。「お前のせいじゃない」と言うカオル。「誰のせいでもあらへん」と言うチャコ。そうです、いくら失ったものがかけがえのないものだとしても、いたずらに自分を責めてばかりでは潰れてしまいます。ここまで来たらもう前に進むしか道はないのです。
 しかし「僕のせいだ、僕がもっとちゃんとした船を造っていれば」とハワードの上着を抱きかかえ泣くシンゴにフォローはなく。あれれれれ?
 これは、「泣いて気が済むなら泣かせてやろう」ということなのか、「今は何を言っても聞く耳もたなそうだからそっとしておきましょう」ということなのか、「誰のせいでもないと言っているだろうが」ということなのか、「俺/うちはもうしゃべったから次のヤツ行け」ということなのか……。

 やがて、思いを断ち切るようにメノリが立ち上がります。後に続くカオル達。シンゴは最後にルナにうながされてようやく。
 きっとメノリが言い出さなくてもいずれ誰かが(シンチャコアダム以外)前進を求めたでしょうが、敢えて先陣を切ってしまうところがいかにもメノリらしいなあ、と深く嘆息してしまうのでした。決して悲しんでいない訳ではなく、むしろ彼女の悲しみとそして残った仲間を守ろうとする思いの深さの反作用故の厳しい言葉なのだろうと思うと、もう泣けてきますよ。

 月下のもと始まった徒歩での砂漠横断は、陽射しの厳しい時間帯の休憩をはさんで夜には森に到着していたのでほぼ一日ぐらいでしょうか。
 ところで、前回のオリオン号脱出時に比べて荷物増えてませんか? 前回見当たらなかったルナのリュックはメノリのヴァイオリンを入れてベルがしょってるし、日光を遮るために張ったシートとかどこから出したんだ。何となくビミョー。水も食糧もないのにスタスタ歩けてしまう砂漠もビミョー。ルナ遭難の時は同じ一日であんなにやつれたのになあ。休憩中、魂が抜けたような顔で眠るルナとアダムはすごかったですが。ま、横断してしまったものは仕方ないので、ベルが発見した森が蜃気楼でなくてよかったね、と。その直前に砂丘をざしざしと登るベルとカオルの姿が何かおかしかったです。

 夜。すばやく果物をゲットし、たき火のまわりで休息をとる一同。このぐらいのことはもうお手の物のようです。
 相変わらず落ち込んでいるシンゴを見かねたチャコですが、励ますつもりが地雷踏みまくり。「無理しなくてもいいわよ」とのルナの台詞に「余計に場が暗くなるから」という言外の意をくみ取ったのはきっと私だけではないでしょう。

 さて、果物に手をつけようとしないシンゴを見とがめたメノリの台詞で、シンゴの反感に火がついてしまいます。メノリの隣に座っていたチャコが思わず果物を取り落とす勢いで、メノリに突っかかってゆくシンゴ。「こんな時によく食事なんてできるね、ハワードとシャアラは死んだんだよ、もう帰ってこないんだよ」。対して「だからどうした」。メノリ様、見事な切り返しです。鮮やかすぎて血が出そうです。
 メノリもわざといつもに増して厳然たる言い回しを選んでいると思うんですが、その裏にあるものに気づけるだけの余裕は今のシンゴにある訳はなく、悲しみと憤りとやるせなさと自責と、もろもろの感情がない交ぜになった物凄い形相でメノリを睨みつけたかと思うと「薄情者!」という言葉を叩きつけて森の中に消えてしまいます。
 ルナを押し止めてシンゴの後を追うカオル。そしてメノリもまたその場を離れ。「シンゴにはまだ辛いかもしれない、あの言い方じゃ」と呟くベル。メノリの元へゆくルナ。たき火のまわりにはベルとチャコ、アダムが残るばかり。7人と1匹(+1人)で最適のチームワークが取れるように時間をかけてバランスを養ってきたから、壊れてしまった環が奏でる響きはこんなにも悲しく。

 ルナが近寄るとメノリは泣いています。2人はもう帰らないなんて、シンゴに言われるまでもなくメノリだってよく判っているのです。そもそも、流砂に飛び込もうとしたシンゴを誰よりも早く引き留めたのは他ならぬメノリ。その「お前まで失うわけにはいかないんだ!」という叫びが「自分が助かればそれでいい」と思ってる人間の発言か、考えるまでもなく判りそうなものを。シンゴのバカチンが。
 だけど、あそこでルナがそばにいるとメノリ泣けないんで……。つくづく不器用な子よのう。

 一方、シンゴはまだバカタレなことをのたまわっております。そこで「生きるとはそういうことだ」と唐突に声を張り上げて演説を始めてしまうカオルさん。メノリに食ってかかるシンゴを眉をひそめて見ていたし、何かしら思うところがあったんでしょうが(船の舵を取っていたのも脱出の指揮を執ったのもカオルだしな)、シンゴはまだ「生きろ!」の境地に達していないので、結論だけ言われても直には納得できないっすよ。で、「僕がもっとちゃんとしたオリオン号を造ってさえいたら……」と、結局そこに帰着してしまうんだなあ。どうもシンゴはまだ2人の死を受け止めきれず、自分を責めることで喪失の辛さを回避しているような節があります。ため息をつくカオルは「シンゴにはまだ無理か……」と思ったのか、「慣れないことはするもんじゃない」と思ったものか、はてさて。
 でもメノリには反発するばかりだったシンゴが、カオルの言葉には「そんな簡単に割り切れないよ」と理屈は理屈として一定の理解を示している様子なのがやや意外。意外といえばカオルがルナを止めてまでシンゴを追いかけてきたのがまず意外で。んでも、ルナだと優しいようでいて、結構弱音を吐かせず封じ込めてしまうところがあるから、シンゴにはこれで良かったかもしれません。

 夜も更け交代で火の番をしながら、思い出されるのはいなくなった2人のことばかり――って、その思い出され方が、故人(仮)の人となりを表していて大変興味深いです。シャアラは、初めての火おこしチャレンジだったり(ベル→#6)、想い出語りだったり(チャコ→#17)、人食い植物からの生還だったり(ルナ→#5)割とポイントアップした場面が選ばれているのに比べ、ハワードは、浅瀬で溺れるところだったり(メノリ→#5)、盗み食い指南だったり(アダム→#20)、何つーかこう、お世辞にも格好いい場面とは言い難いのが……みなさんの心の中のハワード像をよく象徴しておりますね。ほほ。
 この中では唯一、直接絡んでいる訳ではない場面(夕陽に叫ぶ→#16)を思い出しているカオルですが、案外納得かも。ハワードのあけっぴろげなところはどう転んでもカオルには無いものだからして。苦悩の深いシンゴは頭を抱えるばかりで故人(仮)に思いを馳せるどころではないようです。
 うーん、こういう展開になる前に、ある一日の朝から晩までを描いた話が見たかったですね。特に事件が起こる訳ではなくただの生活描写、でもキャラクター同士がどんな話をしてどんな風に一日を過ごしているか、「今日はこういう日でした」という話が。

 翌日、森を抜けた一同は再び崩れ果てた都市跡に出くわします。「お父さん、お母さん」と呟くアダム。ちょーっと待て、それは次回のサブタイ。フライングだよ、アダムきゅん。
 リュック担当のベルはともかく、ルナ・メノリ・カオルが荷物を幼稚園がけしているのが真面目なシーンなのに妙におかしいですが、チャコが位置を特定してメインコンピュータはこの廃墟の向こうだということが判明。進もうとした矢先、都市の防衛線に触れたか、突如ドローンの攻撃が。
 あんた、さっきまでルナの後ろに立ってたやん。何でその角度で押し倒せるんだ。愛の力ってスバラシイ……というカオルの活躍で事なきを得ましたが、ここ、倒れたルナに覆い被さる形でカオルの腕が描かれていて(しかも半袖野郎だから、なま腕だ)そこはかとなくエロい構図だったりするんですが、肝心の腕の中の人が「私達をメインコンピュータに近づけさせないつもりね」って、ムードの欠片もありません。今回カオルはルナのフォロー&アシストに尽くしてるような感があるんですけど、果たしてどこまで通じているんでしょうねえ。

 で、ドローン3体に囲まれた一同は、メノリの判断のもと廃墟の中に走り込みます。非常事態にリーダー権限はメノリに自動委任された模様。このままルナ・メノリ・カオルの緩やかな三頭体制でいくのかな。有無を言わせずベルに担がれているシンゴが笑いを誘います。ナイス判断だ、ベル。
 このドローンって、動きはえらくスムーズですが、センサー機能はものすごくしょぽいですな。壁一枚隔てただけで、目標を探知できなくなってしまうんすか。ですが一度は瓦礫の陰に身を潜めドローンをやり過ごしたものの、やはりその攻撃力は生身のルナ達には脅威な訳で(照準も結構甘いですがね)、とりあえずドローンから逃れるために、集合場所を決め二手に分かれることに。囮役を買って出たルナに「死ぬなよ」と真顔のメノリが、一瞬何のアニメか忘れるくらい男前です。
 3体のドローンを引きつけて先行するカオルナ組。カオルの「俺に考えがある」って、てっきりまた破壊工作に走るもんだとばかり思っていたので、煙幕で機械の目をごまかしただけなのにはちっと拍子抜け。#41、#42の印象が強すぎました……。つか今回丸腰ですかカオル君。
 で、でもさー、言っちゃなんだけど、3体も相手にさせてて悪いんだけど、早々にドローンを無傷のまま散らせてしまったら囮の意味がないんではないかと思うんですがー。案の定、メノリ達、ドローンに阻まれて進めなくなってるし。

 立ち往生するメノリ組は、何やらフラッシュバックしてドローンの前に飛び出してしまったシンゴのために、メノリ・シンゴが別行動を余儀なくされます。地下水路に逃れる2人。(地下道への降り方がかなーり謎なんですけど。鉄格子のはまった蓋、じゃなくて鉄格子が直接土台にはまってるように見えるんですけど)
 メノリのおかげで命拾いしたというのに、シンゴは「何で助けたんだよ!」とまたも逆ギレ。
 ここまでくると自暴自棄というより錯乱の域に近いような。さすがに堪忍袋の緒が切れたメノリ姐、怒りのビンタ炸裂です。シンゴの繰り言に柳眉を逆立てるメノリが「死んでハワードが帰ってくるなら、私の命など惜しくはない!」と思ってそうに見えたのは、私がメノハワ好きだからですか、そうですか。

 集合場所として決めた尖塔の下で、メノリとシンゴがはぐれたことを知るルナ。メノリ達を心配するルナを気遣わしげに見やるカオルが、すげーあからさまなんですが。こっ、これはどういう演出意図によるものなんですか、ねえ?

 地下道でドローンに遭遇し、逃げ場もないまま容赦のない攻撃に晒されるメノリ達。咄嗟にシンゴをかばって撃たれるメノリに、シンゴ本日二度目のフラッシュバック。(本当に何かキメてんじゃないのか、コイツ) 自分がメノリに投げつけた酷い言葉を思い浮かべ。撃たれた反動で地下水道に倒れ込むメノリ。正面からドローンにロックオンされ今まで見せたことのない半ば捨て鉢な表情が、凄艶の一語に尽きます。メノリの前に立ちふさがるシンゴ。そしてその勢いで、はおったハワードの上着から飛び出すHoward's hand mirror。出た!
 鏡を誤射したドローンは、鏡がはじき返した光線が当たって崩れた天井の下敷きとなって沈黙します。
 傷を心配するシンゴに「シンゴのおかげで助かった」と礼を言うメノリ。あんなに手を焼かされていたシンゴに……。やはりメノリも、精一杯気丈に振る舞いつつ、どこか崩壊の予感を抱えながら歩いてきたのでしょうか。
 そして、騒ぎに駆けつけてきた仲間にシンゴが事情を説明し、ハワードの遺志(仮)を感じて改めて前に進むことを誓う一同なのでした。
 ……でも、シンゴがハワードに助けられたと思いたいのは判るけど、チャコのは悲壮に形容しすぎだと思う……。んで、多分ハワードは全然そんなことは考えちゃーいないと思う……。それを言ったら身も蓋もないですかね。

 そのまま地下道を行く一同は、とある角を曲がったところで「何だこれは?」と立ち止まります。
 続くチャコのどアップのカットの方がよっぽどナンダコレハ状態なんですけど(というか、初め本当にビッグチャコがメノリの前にそびえていたのかと思いましたよ)、どうやらメインコンピュータの外郭に辿り着いた模様。遂にラスボス本体とのご対面か――というところで、続きは来週。

 次回は、色違いのアダムスーツを着用した、頭にネジがついて福禄寿の遠縁のようなへんちくりんなキャラクターがお目見えするようです。まったくおもしろい星だ。

 ハワードとシャアラは回想のみでまったく本編には出てこなかった今回。この期に及んでも2人の生存説を頑なに信じております。死亡確定したら、その時はその時でくるくる回るまでですわ〜。

 
最終更新: 2004/08/30
prev / next