鯖の佃煮

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#50 「この星が好きだから」

 「みんな、この星が好きだから」――ルナ

 究極の二者択一、ハワシャ再来、の巻。

 鳴り響く警報。それは重力嵐の接近を感知したものでした。
 モニターを見たシンゴの「重力嵐だ」という指摘に本気で驚くメインコンピュータ・サヴァイヴ。サヴァイヴには本当に重力嵐に関してのデータは入力されていないようです。アダムの仲間達も知らなかったのかなあ? しかし今回サヴァ爺ってばリアクションがいちいち感情的なんですが。前回の人間の想像力の素晴らしさに感動して、早速人間風味を取り入れることにしたんでしょうか。
 サヴァイヴの軌道計算により、3日後には重力嵐がこの星を直撃することが判明。ハワードは宇宙船で脱出しようとしますが、この星を見捨てて私達だけ逃げるなんて出来ない、と言うルナ。「まだ3日あるじゃない」と、重力嵐を消滅させる方法を考えようとします。……このあたりは、発想の転換で前向きなルナらしいと思ったんですがねえ。うーむ。
 前回からその頭脳が冴えてるシンゴが思いついたのが、宇宙船の重力制御ユニットを使う方法でした。重力制御ユニットは新たに重力場を作り出すもの。ならば、重力嵐の起こす重力場の乱れと逆位相の重力場を重力制御ユニットで作り出してやれば重力嵐を消滅させることができるのではないか、とシンゴは言います。
 「机上の空論じゃないのか?」と危ぶむメノリ。「無理だよそんなの」と弱気なハワード。カオルは元エリートらしく「問題は重力場の乱れをリアルタイムで分析できるかだ」と具体的にシンゴの話に参加。
 シミュレーションの結果、シンゴ曰く「この宇宙船の重力制御ユニットのパワーがあれば、重力嵐を確実に消滅させることができそうだね」ということになり喜ぶ一同でしたが(惑星の生態系を崩壊させるほどの重力嵐と同程度の出力を持つ重力制御ユニット……。最高出力でそれだとしても、すごいもん積んでますな)、そこでさらりとカオルが問題発言を。
 「その場合、宇宙船で出来るだけ近づき重力制御ユニットを重力嵐の中へ放出するしかないな」
 どういうことかというと、重力制御ユニット放出→放出の反動を利用して星に戻ることは可能→重力嵐は消滅するが宇宙船は二度と飛び立てない→つまり、コロニー帰還不可能。
 島で遺跡の宇宙船を発見してからこっち、何かというと重力制御ユニットに悩まされてきましたが、またしても立ちはだかる重力制御ユニットの壁。このグループは前世で余程重力制御ユニットに酷い行いをしたとでもいうのでしょうか。
 ルナはサヴァイヴに尋ねるも、宇宙船及び重力制御ユニットの予備はナシ(即答)とすげない返事があるばかり。それを聞いて沈痛な表情を浮かべるアダム。アダムを気にするルナ。
 そして。
「コロニーに帰るのは諦めるしかなさそうね」

 ルナは言いました。
「コロニーに帰るのは諦めるしかなさそうね」「重力嵐がぶつかればこの星は崩壊する。見捨てては行けないわ」と。
 真っ先に反発したのはハワード。「僕はイヤだ」 当たり前です。
 メノリ「星を助けたい気持ちは判る。だが今まで生き抜いてきたのは何のためだ。コロニーに帰るためじゃなかったのか」
 ベルはルナに賛成。「この星にいるのは俺達だけじゃない。この星に息づく様々な命を守りたい」「そんな命を犠牲にしてまで、コロニーに帰りたいとは思わない」 ……それって犠牲なのか?
 シャアラはベルに同調「何も今急いで帰らなくてもいいんじゃない? 救難信号を送り続けていれば、いつかきっと助けがくるわ」
 多分この中では一番現実的な意見のチャコ「確かに今帰るちゅーても、どっちに行ったらええのか判らんしな」
 シンゴとカオルは、自分の意見は述べず、技術は提供するがどう使うかの判断は他に任せる、といった感じで成り行きを見守ることにした模様。
 思いがけずあまり賛成票が得られなかったハワードはそれでも「絶対に宇宙船でコロニーに帰るからな」宣言をして、食糧集めに外に出て行ってしまいます。
 それを見てアダム「僕、ハワードの言うことも判るよ。だってコロニーはハワードの故郷なんでしょう?」
 最近ずっとウザかったが、いい子に育ったな……アダム。むしろアダムの言葉に意外そうな反応を示すルナの方が(ハワメノが反対した時もすごい意外そうな声を出してましたな、この子は)よっぽどどうかしてるってもんです。
 サヴァ爺からのコメントが一言もなかったのはどういうことじゃという気もしますが、ともかく、シャアラはハワードの様子を見に外へ、「考える時間が必要だ」と言うメノリ、カオルは宇宙船のチェックに、それについていくシンチャコタコ――と、重大問題を前に一旦散会といった展開に。

 宇宙船チームはタコが1人ハイテンションで寒々しい空気を振りまく中、重力制御ユニットで重力嵐の重力場を相殺する方法を思いついたシンゴは「この星を助ければコロニーには帰れない。コロニーに帰ればこの星は助けられない。どうしたらいいんだ」と板挟み的に悩んでいる様子。前回同様、自分が考案した計画を話す時にどこまで後のことを考えていたのか知りたいところではありますな。まあ単純に思いついたことを口にしちゃったんでしょうが。
 無言で機器を確認するカオルの腹は読めませんが、いち早く「重力制御ユニット使用→コロニー帰還不可能」まで脳内シミュレーションを済ませていたらしい彼のこと、今後の段取りを色々考えていそうです。

 メノリとベルは宇宙船上部から眼下の緑を眺めながらの2ショット。
 コロニーに帰れなくなってもいいのか?と聞くメノリに、ベルは、惑星開拓という父の仕事柄、方々の惑星を巡ってきたがいつも人間はドーム暮しなことに違和感を持ってきた、ここには本物の自然がある、だから守りたい、と言います。前段と後段の関係がよく判らん説明ですが、そこには心動かされているようなメノリ嬢が。ええー、メノリ・ヴィスコンティともあろう方が何でベルの世迷言ごときで翻意されてしまうのですかー?

 メインルームに残ったルナは、サヴァイヴの「重力嵐が迫ってるんだから早く宇宙船を出発させろ」要求に困惑していました。冷徹無比の機械神サヴァイヴも今じゃただのワガママ爺さんです。
 「急に重要な選択を迫られたのよ。だから戸惑ってるだけ。でもきっと判ってくれる。誰もこの星を見捨てたりしない。――みんなこの星が好きだから」と言って気短なサヴァ爺を宥め、とりあえず「ちょっと待って」を了承させるルナですが。
 しかし、皆が一体何を「判ってくれる」というのでしょうか。この星を救いたい、というのはリーダーとしての判断ではなく、ルナ個人の願望、ただの私情でしょう。それを判れと? では何故ルナはハワードの帰りたい思いを判ってあげないのでしょうか。いつもの我儘とは性質が違いますよ。ねえ? 素直に喜べないでいるアダムの方がよっぽど人の心を知ってる、と感じたほどです。
 自分の考えを最初から絶対の決定として疑いもしないとは、リーダーに選出されたはいいがことある事にメノリの顔色をうかがっていた島でのルナとはまるで別人です。でも今のルナはリーダーとして成長したというよりは、自分の考えと皆の考えを同一視してしまっているとしか言いようがありません。
 なんというかですね。ルナの判断が、今すぐに宇宙船で脱出したとしても無事にコロニーまで辿り着けるかどうか判らない、それより星を守ってここで生き延び次のチャンスを待とう、というようなものだったら、見ているこちらも仕方ないと納得したと思うんですが。でも「諦めましょう」発言の前にルナはアダムの顔を見ましたよね。アレがダメでした。
 この星は要するにアダムの星です。ルナは他の6人の仲間よりアダムを優先するのでしょうか。
 ルナのアダムきゅん大事は今に始まったことではありませんが、それにも増してこの星のことになると明らかにルナは変です。#45では定住容認発言も出ました。自分の命よりこの星の将来を案じている節も見受けられます。……誰か、悪性ナノマシン除去装置まだ持ってたらちょっとルナに照射してみてほしいんですけど。何か飛んでくかもしれないし。
 本当にルナはコロニーに帰る意欲を無くしてしまったんでしょうか。もしチャコを家に残してきていれば、ルナも定住OKなんて思わなかったのかなあ。
 それとも。
 ストーリー進行的には惑星脱出の考えを改め(させられ)るエピソードを拾うために解散したサヴァイヴメンツですが、逆にいうと仲間も三々五々出ていってしまい、メインルームでルナと共に残ったのは結局自分の子供のアダムだけ。誰もルナを説得しようとしない。ルナと一緒にいようとはしない。とても象徴的な場面だと思ったのですが、コロニーに帰れば恐らく同じ状況になるでしょう。皆、帰る場所のある子供達なのですから。(カオルは知らんが)
 「この星が好き」なんて綺麗事で本心を誤魔化さなければならないほど、そんなにルナは淋しいのでしょうか。
 今一番、本音を聞きたいのは、何を隠そう主人公のルナです。

 それでもって。
 反対勢力最大派のハワードには一番長く改心エピソードの時間が割り振られていました。(シャアラ付き)
 追いかけてきたシャアラと共に地震に遭い、地割れに飲み込まれるハワード。運良く(相変わらずハワードのラッキー値はメーターを振り切っているようです)途中の出っ張りにひっかかり転落死は免れた2人ですが、垂直にそびえる割れ目にはよじ登る足場さえ見当たりません。早々に自力脱出を諦めてしまうハワードに比べ、少しでも助かる可能性を求めて歩き出すシャアラ。途中、地震で転落したとみられるパグゥを見つけ怪我を手当てするかどうかで、雨の中少々揉めますが、シャアラの一喝でハワードが折れる形に。ルナやメノリにはさんざん言ってきましたが、よもやシャアラに男前の形容を使う日がこようとは。それでも全体的に、助け合う2人は会話や仕草がいちいち可愛くてなかなかよい雰囲気です。ハワードがやけに素直だし。
 しかしパグゥを崖の上の子パグゥの元に返せないか、と言い出すシャアラにはさすがにハワードも本気で呆れ顔……というところで再び地震が。再び岩盤ごと落ちるハワード。亀裂側に座ってるから危ないと思っていれば案の定です。シャアラが差し伸べる木の棒は岩肌にしがみついているハワードまで届かず、2人の不在に気づいて探しに来ていたベルメノアダ組も反対側の崖から声援を送りますが、当然何の助けにもならず。その時ハワードを助けてくれたのは、シャアラが手当したパグゥでした。その舌に絡めて木の棒をハワードの元へ伸ばしてくれたのです。
 ようやく崖の上に這い上がり、遅れてやってきた反重力式飛行艇のカオルナシンチャコタコに毒づいてみせるハワードですが、その傍らで今度はパグゥが落下(君ら落ちすぎ)。カオルが飛行艇を殆ど垂直に急降下させ、落ちる巨体を見事拾い上げて一件落着。(よく乗員が振り落とされなかったもんですわ。特に座席外にいたチャコタコ)
 雨上がり、歩み去るパグゥ親子を見送りつつ、雲の合間から差しこむ夕陽を見、吹き渡る風を受け、コロニー生活では味わえない自然を満喫するサヴァイヴメンツ。その頃にはすっかりハワードも重力制御ユニット犠牲派に転向していたのでした。
 ……何で!?

 うーん、結局ほぼ全員ルナの意見に賛同ですか。星を助ける理由は各自バラバラでいいと思うんですが。今更このメンツで「理由が異なってるからチームワークが乱れる」ってこともないでしょうに。何で「この星が好きだから」というルナの意向に添わせなければならないのか、非常に疑問です。
 ルナに必要なのは(かつ、ルナが恋に落ちるかもしれない人物って)いつも後ろでフォローしてくれる人ではなく、時には折り合いをつけつつも決してルナと同意見にならない(自分と違う考えを持つ人がいる、ということを教えてくれる)人物のような気がしてきたんですが、どうでしょう、カオル君。

 で、予告の「そしてどんなことがあっても生き抜いてこの星に帰ってこようね、みんな」でダメージ2倍です。画像はやけにキラキラしとりましたがねえ……、本気でコロニーに帰る気ないのかい、ルナちゃんよ。
 まさか帰りたいと思っているうちは帰れないが、帰れなくてもいいやと思い出したらすぐに帰れる――なんてマーフィーの法則じみたオチが待ってる訳じゃないでしょうね?

 やけにハワード×シャアラ的シーンが多かった今回。私は、なんだかんだ賑やかなハワメノ、友達みたいなハワシャ、落ち着いた雰囲気のベルメノ、ほのぼのカップル・ベルシャ、どれでもいけますが(ついでにいうとカオメノも結構イイと思っとります)、ルナの件が尾を引いていまいちカップリングネタには乗れなかった、というのが正直なところ。

 あと、予告見て、やっぱりアレ全部飛び上がるんだ……と驚愕したのですが。
 素朴な疑問です。重力制御ユニットなしであのバカでかい宇宙船、無事に着陸できるもんでしょうか。滑空……しそうにないんですけど。星になっちゃうよ……!

 
最終更新: 2004/10/16
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