鯖の佃煮

prev / next

#51 「死ぬために行くんじゃない」

 「死ぬために行くんじゃないさ」――カオル

 これで最後かカプ祭り、女神様 臆病コンピュータに説教をたれる、の巻。

 サヴァイヴの言語サポートのもと、宇宙船の軌道計算や重力制御システムの試運転など、慌ただしく準備をするサヴァイヴメンツ。
 そして出発前夜。

 ひとり宇宙船の操縦席で星を見ているルナのもとにやってきたのは、機器のチェックをしに来たカオルでした。
 ……カオルたんのきらめく笑顔に笑ってしまいそうです。あんた、どこのニセモノよ。ええい、横目で見るなッ。今回、全体的に作画が綺麗でしたが、なんつーか人形チックな気がしました。リカちゃんとかバービーとかそれ系の。ルイの話をする時など、眉毛一つでカオルの表情のニュアンスを変えてくるのはさすがだと思いましたが。
 「宇宙船の操縦、俺に任せていいのか?」と尋ねるカオル。やっぱり気にしてたんでしょうか、あの数々の事故歴(というか運の悪さ)。しかし言葉と裏腹にその表情はとても穏やかで。いったいいつ悟りを開いたねん。まあこの人はこの件に関しては最初から皆に従うと決めていたようですから、とうに気持ちは落ち着いていたのかもしれませんが。ルイのことも、ルナが相手だからこそでしょうが、さらりと話題に出せるようになったみたいだし。「俺もその言葉に救われた気がする」って、ルナにお礼を言いたかったのかな。ていうか、キミら、いつの間に目と目で会話するような仲になりましたか?
 ルナとカオルって「生きろ」という言葉を中心点にして点対称な位置にいるような気がします。シニカルで仲間とも距離をとっていたカオルは、次第に仲間にも溶け込みだんだん前向きになってきましたが、それに対して、当初の明るく前向きな性格からここにきて独善的で自己犠牲的な行動が目立つようになってきたルナ。以前から無茶はいろいろやってましたが、最近のルナは「あの時から生きろっていう言葉が私の胸に刻まれたみたい」「私は絶対に諦めない」と言う割にどこか儚い印象があって、いざとなったら「みんなのため」という理由をつけて、あっさりすべて手放してしまいそうで怖いです。父親の影響が大きすぎるのかなあ。

 さて、湖のほとりでヴァイオリンを奏でていたメノリのもとにはハワードが。
 「メノリの演奏の本当の良さは、かつてピアニストを目指した僕にしか判らないだろうけどね」って、メノリんじゃないですけど、初耳ですよ。ピアニスト? あといくつ隠し球を持っているんだハワード。もうすぐ最終回なんだから、まだ隠しているものがあったらさっさと出したまい。
 いつも通り冷静なメノリは、決戦前夜に馴染みの深いメノリの顔を見にきたハワードの心情をよく理解しているようで、すっかりハワードを手玉にとっていて格好いいです。それにしても「生憎だが、私を励ましてくれる素敵な紳士ならさっきからそばにいる」とは余裕有りすぎ。ベルが出てきたらどうしようかと思いましたよ。(登場したのはアダム) ハワードは誰を想像したんでしょうかね。あのポカンとした様子では白紙状態だったようですが。
 つまるところ、ハワメノ間に恋愛感情が存在しているのかどうかといえば、喧嘩が多いのは仲がいい証拠、ただしそれが痴話喧嘩かどうかは微妙……というラインじゃないでしょうかねえ。仲がいい幼馴染み状態で、気心が知れていて付き合いやすいが、恋愛沙汰に転げ込むにはもう一押しほしいところ。少なくともハワードは愛だの恋だのというのは薄い気が。メノリは……メノリんはガードが固いからなあ。メノ→ハワは結構、有りじゃないかと思いますが。

 一方、星空の下、草むらに腰を下ろしているベルとシャアラ。
 「この星に来てから強くなったよ、シャアラは」とベルに言われて、どことなく淋しげなシャアラ。「まだまだ甘えん坊だから」と、そう口に出して言えるのは、多分もうそうじゃないということが判っているからでしょう。
 ベルを見るシャアラの顔が、自分は本当はもう手の掛かる妹分じゃないって判ってる、そしてあなたには異性として大切に想っている人がいることも知っている――そんな淋しさをたたえたような表情に見えて、まだ14才なのにそんな大人びた顔してくれるなよー、と思ってしまいました。んでやっぱりルナの名前を挙げてしまうベル。ベルは、ルナラブを基調にしつつ純粋に回想モードで、そういう純朴というか気が回らないところが殴りたいような蹴飛ばしたいような。

 で、語らうベルシャのところに、微妙に白々しい雰囲気を携えつつ、カオルナ、シンチャコタコ、ハワメノアダと次々仲間が合流し、みんなで星空観測会へと。
 突然のカプ祭りでしたが男女6人無人惑星物語、ルナからの描写が薄くて未だ輪郭が曖昧なカオルナ、恋愛感情か友情か微妙な幼馴染み的ハワメノ、先輩←後輩風なベルシャ(なので、間隙を縫って電撃的にハワシャ成立も可能性高し)と、最終回前にそれなりの総決算となったのではないでしょうか。(ビデオを3回見直した結果、そのような結論に達しました)
 シンゴ……は、ええと、今回は1回休み、ということで。

 そんなこんなで、これからのことを思い星空を見上げるサヴァイヴメンツ。「こうして星を眺めるのも、これが最後になるかもしれないぞ」と気弱なことを言うハワード。それをたしなめるシンゴとチャコ。そしたら。
 「死ぬために行くんじゃないさ」とカオルさんが。ホントさらっと言いましたよ、この人。今までにこんな軽口叩いたことあるか?というほど、くつろいだ口調で。言われたハワードは勿論のこと、聞いてた全員が吃驚です。ああ、こんなことをこんな風に言えるくらい成長したんですねえ……カオル少年は。しみじみですよ。で、ベルが後を引き取って「そうだ、生きるためだ」、ルナが「帰ってこようね、どんなことがあっても生き抜いて」と言って意気揚がるサヴァイヴメンツなのでした。
 ……実際のとこ、カオル君はこっそりルナと念願のチューでもして思い残すこともなくなったんスかね。

 翌朝。
 宇宙船から陸上に搬出したカプセル群の傍らで、自分も一緒に行くというアダムを説得するルナとメノリ。最初からルナ達はアダムを星に残して宇宙船を飛ばす気でいたようですが、それを話し合うシーンも欲しかった気が。
 結局、メノリが「わがまま言うな! アダムは残るんだ、この星の未来のために」とアダムを怒鳴りつけるかたちで無理矢理納得させたようですが、こういうところ#44でもそうでしたが、気持ちの伝え方がほとほと不器用ですね、メノリ嬢は。夕べは一体どんな気持ちでヴァイオリンを弾いていたのでしょうか。
 でも正直アダム連れて行けと思いましたがね。ルナにベタベタしていろいろとウザくもあったアダムきゅんですが、ここまできたら一蓮托生でしょう。宇宙船はそりゃあ危険でしょうが、星に残るのもあまり安全とはいえないような気がするし。だったら最期まで仲間といた方が幸せってもんじゃないでしょうか。それにルナは「アダムはタコと協力して、この星の動物や自然を守ってあげて」と言っとりましたが、ルナ達が戻らずアダム1人となった場合、それってアダムの人生を捨てろと言ってるようなもんなんじゃ……。
 ともかくアダムは通信機器のあるメインテラフォーミングマシンでタコと一緒に宇宙船の行方を見守ることに。(子供は損ですな、まったく)

 砂塵を巻き上げつつ重々しく浮上した宇宙船は順調に大気圏を脱し、重力嵐への突入軌道に乗ることにも成功。サヴァイヴメンツは耐熱シールドを上げて宇宙に輝く青い惑星の美しさにしばし魅入ります。
 しかしカオルが重力嵐を目視で発見、予定外に重力嵐のエネルギーが増大していることが判り、一気に緊迫した雰囲気に。……というか、肝心の目標物なんだから継続観測とかしないか、普通。あとカオル兄さん、吃驚しすぎ。ついでに船に乗ってからと言うもの気張りすぎ。もそっと落ち着け。真面目な場面なのにキミの声を聞くと笑ってしまうやんけ。
 今更、気弱におさらいするメノリ「確か重力嵐自身からエネルギーをかすめ取って、逆位相の重力場を作るんだったな 」に、シンゴも「うん、宇宙船の重力制御ユニットがそれに耐えることができれば、だけど……」とやや語尾を濁して答えます。うーん、シンゴはこういう点、#43でもそうでしたが、技術担当としてはちっとツメが甘いような。不測の事態に備えて、第2第3の手を考えておかなければ立派な真田さんにはなれないぞ。
 で、それは全体的な計画の立て方にもいえることで、とにかく重力制御ユニットで重力嵐を消滅させることだけを目標にして、重力嵐の規模が変動している場合を想定していなかった(或いは事前の打ち合わせが足りなかった)サヴァイヴメンツは、重力嵐の消滅は不可能と判断したメインコンピュータ・サヴァイヴに裏切られ、重力嵐を目前にしてあっさり宇宙船のコントロールを奪われてしまいます。セーフティプログラムが作動し、惑星に戻るルートを辿りはじめる宇宙船。ここまでの努力は水泡に帰すのか? ……ちゅーか、サヴァイヴだけで宇宙船を自由に動かせるなら、あれだけの人員は不要なような……。

 一人サヴァイヴのもとに直談判に向かったルナは、及び腰のあまりついには「星の環境を守ることが私の使命」の一点張りになってしまったサヴァイヴに、「このままでは星は確実に壊滅する、だったら少しでも可能性がある方に賭けるべき」と訴え「もしその勇気がないのなら私を取り込んで」と申し出ます。思い切った提案に、重ねてルナの意志を確認するサヴァイヴ。#48で「お前の力が欲しい」とのたまっていたサヴァイヴ様とも思えない慎重さです。というかこれは、#49の「危険を承知で可能性に賭ける人間の無謀さと勇気」という流れと同じなんですが、あの時に人間の持つ可能性は理解したが、サヴァイヴ自身がそれに荷担するのはそれこそ勇気がないってことなんですかね。機械相手に勇気云々というのもなんですが。しかし、そんなことを思わせてしまうほどサヴァイヴが人間くさい反応を見せているのも確かなんで(データ偏重ならそれはそれで、根拠としてかっちり数字をあげて反論してほしいところ)、恐らく当時の技術の粋を結集して作られたサヴァイヴ、どの程度の柔軟さを持つよう計算されているコンピュータなんでしょうか。
 最後にはむしろ根負けした形でルナを取り込んだサヴァイヴは、ルナの不思議な力の根源を理解します。
 「そうか、お前の力、それは怒り、憎しみから生まれるマイナスの力ではない。仲間を助けようとする心、絆、生きたいという強い思い、それがすべてのものに生きる力を与えていたのだ」
 それは#48でやっただろ、今頃判ったように言うなこのオンボロが!とルナが思ったかは定かではありませんが(まあおさらい台詞ですね。見逃した人もこれで安心、親切設計さばいボン)、いつまでも後ろ向きなサヴァイヴに、逆にサヴァイヴを乗っ取りかねない勢いで命令を下すルナ。こええ。
 「生き抜くのよ、どんな困難にぶつかっても!」
 まー、生き延びるために死地に向かえ、つーのも無理な話ではありますわな。
 かくして宇宙船のコントロールは人類側へ。

 スピーカーから聞こえるルナの声に促され、重力嵐に向かって再発進する宇宙船。戻ってこないルナを心配するシャアラに「今は戻れない」と曖昧に答えるルナ。その返事を聞きとがめたメノリが事情を質そうとしたその時、重力嵐の影響が宇宙船にも及びはじめ――

 以下来週。

 で。vs重力嵐という点では、ほんの序盤戦なんで今後の展開待ちって感じなんですが……ってあと1回しかないんですけど。一体どうなっちゃうんでしょーねー。予告では重力制御ユニットはそれなりに作動していたようですが、船体の方が持たなさそうで。
 いつの間にか“すべてのものに生きる力を与えていた"というところまで格上げされていたルナのミラクルパワー、どこまで威力を発揮するのでしょう。ルナたん超人ロックになる、の巻になっちゃったらどうしましょう。
 あと、ルナがサヴァイヴと一体化したことを皆に知られずに重力嵐戦を切り抜けるというのはまず不可能だと思うので、とするとカオルさんがいろいろこっ恥ずかしいことを言ったりやったりしてくれそうな予感がするのですが。仲間の連帯力でハワシャを呼び戻したように、みんなの力でルナを呼び戻すのかなあ。待っているのは初代ガンダム風ラストか。
 アダム置いてったし、コロニーには多分帰れるんだろうと思うんですが、そこに辿り着くまでの経緯がさっぱり予測できない……。アダムとはあれが今生の別れとなるんでしょうかねえ。だとしたら随分あっさりとした別離のシーンですが、逆にその取り返しのつかないあっけなさがひどくリアルな気も。たださすがにアダムの今後は気になるんで、エンディングあたりででもちらりと教えてほしいと思います。

 「お前は新しい人間なのかもしれない」と言うサヴァイヴに、ルナが「いいえ、それは逆じゃないかしら」と返すのが意外でした。続くくだりでは新井素子「ネプチューン」を思い出したり。
 しかし「サヴァイヴという名前は、まさに生き抜くという意味よ」ってそれは反則だろう>ルナたん だってアダム語でどういう意味か判らんものをさあ。

 宇宙船内で、たどたどしいハワードの台詞回しに、らしさを感じたり、通信士役のシャアラ「ボイスチェックOK、感度良好」に爆笑したり、操縦席で呟くカオルの「ルイ、俺は生きるために行く」はマジ涙ものの台詞だと思ったり。

 次週最終回。
 ルナはきっと「諦めるな」のルナだ。

 
最終更新: 2004/10/24
prev / next